Aさん

最近,ニュースなどで「知的財産・知的財産権」という単語をよく聞くようになりました.著作権とか商標とかは,何となく分かるのですが,知的財産・知的財産権ってなんですか?

B社長

知的財産については興味があるし,権利がとれるなら取ってみたいけど,知的財産や知的財産権はビジネスをするのに役にたつことってあるのでしょうか?

最近,このようなお話はよく耳にします.
「財産権」は,なじみのある言葉でしょう.家や土地などの不動産,車やブランド物のバッグ,そしてお金.
世の中には目に見える財産といえるものがたくさんあります.

しかし,ここ10年程前から特に注目されている知的財産,そして知的財産権
そもそも、この「知的財産・知的財産権」についてその実態についてよくわからないという方も結構いるのではないでしょうか.

今回は,この「知的財産・知的財産権」が何かを解説するとともに,知的財産・知的財産権の取得によるビジネス上のメリット・重要性についても紹介していきます.

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2つの商店街の違い

知的財産・知的財産権のことについて考える前に,2枚の写真について検討していきましょう.

まずは左側の写真.武蔵小山商店街という,東京都品川区の商店街です.
現在も活気のある商店街です.

そして右側の写真.えびす商店街という,福岡県行橋市の商店街です.
写真からみてわかるように,あまり活気があるとはいえるほどではないということが見て取れるでしょう.

このように,現在も活気のある商店街がある一方,シャッター商店街とよばれる商店街があることも事実です.
ところで,この2つの商店街の違いはどこにあるのでしょうか.
確かに,東京都品川区と,福岡県行橋市とでは,人口が大きく異なります.
しかし,寂れた商店街となったえびす商店街も,以前は品川区の商店街と同様に人が多く,映画館も存在していたくらいです.
このため,人口分布はさておき,活気のある商店街と,そうでない商店街の違いはどこにあるのかについて,皆さんで考えてみていきましょう.

2つの商店街の違いは様々ですが,大きく4つ挙げてみました.

まず,売れる商品やサービスが提供されているかどうか.
売れ筋商品,サービス,人気の商品などを店長やスタッフがわかっていれば,それらを取り入れることで集客につなげることができることは容易に想像できますよね.
高級食パンブームのとき,あちこちと高級食パン店ができたり,タピオカブームのときは,タピオカ専門店なるものがあちこちにできましたよね.
ブームに乗るというのは,活気のあるお店にするためには必要不可欠かもしれません.
他にも,おいしいラーメンやカレーライスなどを食べさせてくれるのであれば,そのお店に出向きますよね.
このように,売れる商品やサービスが提供されていることにより,活気が出てくるというものです.
最初は数点でも構いません.
そのような活気のあるお店が出てくると,周辺のお店も,「よし,いっちょやるかー」と頑張って売れ筋の商品を分析し,提供しようと前向きになるはずです.
このようなお店が多くあれば,商店街は活性化してきます.

他に,集客技術というのもあります.
集客技術は,どこの企業でも絶対に必要です.
売り方や顧客に対する話し方,ショップの外観など,集客のためのノウハウはとても重要です.
たとえば,若い女性をターゲットに集客するのであれば,かわいい商品や,私の好きなゆるキャラ,「ふっかちゃん」のようなマスコットキャラクターを置くことで集客につなげることができるかもしれません.
iPhoneのようなアップルブランドは,ブランド力で集客につなげているといってもいいでしょう.
このブランドの商品を買いたいから,来店するという流れができるわけです.
他にも,口コミで集客ができるなど,集客技術が高ければ高いほど,活気が出てくるものです.

そして,組織の力も重要です.
経営方針や従業員の働きやすさといった,職場環境の善し悪しは集客に影響を及ぼします.
従業員間の仲が悪く,ギスギスした店内では客も近づこうとしないからです.
明るく,元気のあるお店は,関心を持たれ,ちょっと店舗内に入ってみようかという心理が働きます.

さらに,特許権や商標権などの独占権を有することで,お店の強みとなり,この強みを活かして集客につなげることができると考えられます.

このように,活気のある商店街とそうでない商店街とには,目に見えない違いというものが大きく影響していたりします.

知的財産は財産的価値のある情報のこと

知的財産は財産的価値のある情報のこと
知的財産は財産的価値のある情報のこと

商品の目利きや集客ノウハウ,ブランド力,商標権や特許権は,情報財ともいわれます.
そして,情報財のうち,財産的価値を有する情報,つまり,換金できる情報財のことを知的財産といいます.

人間の知的な創造活動によって生み出されたものについて,その創作した人の財産として保護するようにしたのが知的財産権制度となります.
「知的財産」及び「知的財産権」は,知的財産基本法において次のように定義されています.

知的財産基本法
第2条第1項
この法律で「知的財産」とは,発明,考案,植物の新品種,意匠,著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって,産業上の利用可能性があるものを含む.),商標,商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう.

第2条第2項
この法律で「知的財産権」とは,特許権,実用新案権,育成者権,意匠権,著作権,商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう.

知的財産とは,発明や著作物,デザイン,営業秘密など,「目に見えない情報」であって,財産的価値を有するものということができます.

「情報」ですので,発明や著作物,デザインなどは容易に模倣されやすいという性質を持っています.最近ですと,原作の小説の主人公の名前だけを書き換えて別の小説として売り出してインターネット上で批判されている方がいましたが,情報であるが故にそのような行為が容易に行うことができます.

しかも,情報は利用されることにより消費されるということがありません
ひと昔のように,ビデオテープをダビングするといっても,テープの再生回数が増えたり,ダビングしたものをさらにダビングしたりすると映像が乱れたり,音質が劣化したりと,価値がどんどん低下していきますが,電子データであれば,複製を繰り返すことによって映像や音質が劣化するということはありません.

情報は,多くの者が同時に利用することもできます.
クラウドサービスはまさにその典型です.
一つのプログラムをサーバに置いておき,IDとパスワードによりアクセスした各個人が,一つのプログラムを実行することができるようにしたのがクラウドサービスです.
このように多くの者が同時に特定の情報を利用することができるということです.

「技術情報は公共財」という側面がありますが,発明や著作物,デザインを創作した方は,その創作した努力に応じてご褒美を与えるようにすれば,積極的に発明や著作物,デザインを創作しようという意思が働き,日本の産業がより活性化するのではないかと,行政庁のお偉いさんや国会議員が考えたわけです.

そこで,本来自由利用できる情報を,社会が必要とする限度で自由を制限する,つまり,発明や著作物,デザインを創作した方に,一定期間,一定条件下のもとでその創作したものを独占する権利(=これを「知的財産権」と言っています.)を与えるようにしたのが,知的財産権制度ということになります.

弁理士

知的財産は,財産的価値のある情報,
知的財産権は,知的財産を(一定期間・一定条件のもと)独占することができる権利ということです.

知的財産権を取得することのメリット

知的財産権を取得することのメリット
知的財産権を取得することのメリット

企業が事業を行う上で,知的財産権を取得するメリットは様々です.
ここでいくつか紹介しようと思います.

(メリット1)市場拡大による売上アップに期待
知的財産権を取得し,その権利を利用して新たな市場に進出することで,市場を拡大させることができます.
市場の拡大によるメリットを取り込んで売り上げをアップさせることができるかもしれません.

(メリット2)ライセンス料による収益アップに期待
ライセンスを他社に与え,そのライセンス収入により収益アップにつなげることが可能となります.
一度,ライセンス設定をすると,設定された期間内は定期的にライセンス料が入ってきますので,権利者にとって,とても大きな収入源となってきます.

(メリット3)権利の売却による収益アップに期待
ライセンス料は,設定された期間内は定期的に入ってくる収入源となりますが,せいぜい,収入の大きさは他社の収益の数%です.
逆に権利を売却すると,一括して大きな収入を得ることができますので,経営状況や事業規模に応じてライセンスするか,売却するかを検討することがよいでしょう.

(メリット4)従業員のモチベーションアップ・レベルアップに期待
「知的財産権の獲得はものすごい」という認識を皆さんはもたれているでしょう.
知的財産権を取得するということは,知財担当者だけでなく,創作した方自身,所属する組織の気分が上がることに期待できます.
ただし,この効果を得るためには,社内規則等の見直しは必要です.
知的財産権を取得しても表彰しなければ,社内広報もないのならば,モチベーションアップの効果はほとんど得ることができません.

(メリット5)参入障壁による市場確保
知的財産権を取得することで,その技術やデザインを一定期間独占することができますので,参入障壁を築くことができるかもしれません.
数千億円の市場を寡占・独占できるのであれば,企業にとっては大きな収益につなげることができるだけでなく,十分なシェアを獲得できれば,権利が切れた場合でも,そのシェアを維持することで,大きな収益を長期的に獲得することができるでしょう.

(メリット6)将来のリスク低減策
多額の開発費を投資しても,知的財産権を取得していなかった場合,開発の成果を他社が模倣しても,模倣に対抗する方法は限られます.
知的財産権を取得することにより,他社の模倣を牽制することができます.

(メリット7)訴訟リスクを低減
知的財産権を取得していなかった場合,模倣差止に対して訴訟を提起する場合,主張立証が困難で,訴訟が長期化し,訴訟にかかる費用が高額となりやすくなります.
しかも,仮に勝訴したとしても,弁護士費用・弁理士費用を支払うと赤字になるようなケースがとても多いでしょう.
知的財産権を取得することにより,権利の存否・権利の内容が明確となり,主張立証が容易となり,訴訟の長期化を避けることができます.
これにより,訴訟にかかる費用が想定より大幅に高額となるケースは少ないのではないでしょうか.

弁理士

知的財産権の取得のメリットは多岐にわたります.
メリットを活かすためには,知的財産権の取得だけでなく,どのように知的財産権を活用するかまで検討することをお勧めします.

ベンチャー企業では知的財産権の取得は絶対条件

ベンチャー企業では知的財産権の取得は絶対条件
ベンチャー企業では知的財産権の取得は絶対条件

ベンチャー企業が事業を成功させるためには知的財産権の取得が絶対条件となります.
ベンチャー企業が知的財産権の取得を必要とする理由を5つほど挙げてみました。

(理由1)資金調達時のアピールにつなげることができる
ベンチャー企業は,研究開発費用などにおいてより多くの資金を必要とします.
しかし,資金の出し手であるベンチャーキャピタルが技術やサービスの関連分野に明るいとは限りません.このため,資金の出し手が,技術やサービスの有用性を適切に評価できず,出資を決断できないという問題があります.

特許権を持っている場合には,資金調達時のアピールにつなげることができます.
むしろ,ベンチャーキャピタルから,特許取得を要求されることが多くあります.
「特許取得」=「有用な発明」というわけではありませんが,特許取得までの審査過程において,発明の有利な点がより明確となり,後々の技術やサービスのプレゼンにおいて有利に働くことが期待できます.

(理由2)PRにつながる
世間では,知的財産権,特に特許権や意匠権は特許庁のお墨付きが得られたものという認識です.
このため,ベンチャーキャピタルに限らず,様々な方面に対してアピールすることが可能となります.
たとえば,製品外装に特許番号や「特許権取得済み」,「実用新案登録済」などを付すことで,最終消費者に訴求したりすることができます.

(理由3)信用力アップにつながる
創業間もないベンチャー企業では,他社との取引実績がほとんどなく,仕入先企業や金融機関の信用がなかったりします.
しかしながら,事業展開を図ろうとしている新たな技術やサービスについて知的財産権を取得することで,会社の信用力のアップにつながることが期待できます.

また,知的財産権を担保に資金調達するなど,信用力の補完を図ることができます場合があります.
特に,近年では,知的財産権を企業価値評価に加え,融資を容易にする金融機関が増えています.
知的財産権を取得することにより,融資を容易にすることができるかもしれません.

(理由4)交渉力のアップにつなげることができる
ベンチャー企業や零細企業が他の企業と共同研究をする場合,知的財産権の有無により,交渉力に雲泥の差が生じることがあります.
特に,自社技術をノウハウとして保管しているだけの場合,共同研究相手の企業が途中から勝手に単独で研究開発を行い製品化を進めるケースが多くあります.
ひどいケースでは自社技術について共同研究相手の企業が勝手に特許出願し,しかも特許権が付与されているケースも多くあります.
性善説にたつのではなく,共同研究を行う前には,自社の技術は特許化しておくことをお勧めします.

(理由5)EXITの際の選択肢を増やす
ベンチャー企業のEXITとして,IPOだけでなく,M&Aも増えてきています.ベンチャー企業が知的財産権を取得することにより,その知的財産権とノウハウ技術等を目当てにM&Aを行うというケースも多く見受けられます.

弁理士

ベンチャー企業や零細企業では経営資源が乏しいですが,他社との交渉を有利にするために積極的に知的財産権を取得することをお勧めします.
知的財産権の取得の費用をコストではなく,投資として捉えることも重要です.

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