Aさん

企業のエンジニアです.研究開発の結果,吸引力が強い掃除機を開発しました.掃除機は,身の回りに多くありますが,発明としての保護を受けることはできますか?

B野球選手

プロ野球選手です.フォークボールの投球方法について新しい知見を得ることができました.フォークボールの投球方法について特許を受けることができますか?

最近,テレビで「この特許技術がすごい!」とか「特許取得済み」とか,大々的に宣伝文句に使用しているものをよく見ます.
特に,サプリメントや育毛剤などの通信販売が活発な分野で「特許」というキーワードをよく目にするでしょう.

「特許権」は,知的財産権の一種で,特許法という法律で特許の保護対象から特許権取得までの手続的なことまで規定されています.

今回は,この特許法という世界に踏み入れる前に,大前提として押さえてほしいこととして,
1.特許法が制定された目的
2.特許法で保護される「発明」
について解説していきます.

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法とは何か?

法とは何か?
法とは何か?

といっても,いきなり,法律論からお話しするのではなく,知財法を勉強しているみなさんに共通して,まず知ってほしいことを最初にお話しして,そのあとに,特許法の目的と保護対象についてお話していきます.

法律に携わる方,弁護士とか,私みたいな弁理士,隣接専門職が法律をどのように体系して理解するか,実務で法律をどのように活用するかといいますと,
大前提として,法律が目的とするのは,私たちの幸福・生活を確保することです.

しかし,世の中は流動的に動いていますので,私たちの幸福・生活の保障の観点で矛盾が生じることがあります.
その矛盾が解消されるよう制度が変わってきます
ルールが変わる,法改正があるのはそのためです.
そして,どのように解釈したら「法律が対象としている現実」がうまくいくかを理解することが正しい法解釈ということになります.

社会は共同生活により成り立ちます.
共同生活は,約束事を守って維持・発展していきます.
この約束事は,慣習であったり,道徳・宗教・倫理であったり,法であったりします.
このうち,法は,共同生活のために,私たちに対して,一定の行動をさせようとするわけです.
このため,法は,私たちの行動の基準,社会のルール,難しい言葉で言うならば,「社会規範」ということになります.

そうすると,法とは,国家権力による強制力を伴った社会規範ということができます.
この社会規範は,紛争解決手段ですので,一定の価値観に基づく判断が含まれてくるわけです.

特許制度は発明の保護と利用のバランスを考えた制度

特許制度は発明の保護と利用のバランスを考えた制度
特許制度は発明の保護と利用のバランスを考えた制度

日本に存在する「法律」とよばれるものは,この一定の価値観に基づく判断を考慮したうえで、選挙で選ばれた国会議員というお偉いさんによって,作られていきます.

ただ,やみくもに,「あれ,やってはいけないよ」・「これ,やらなきゃいけませんよ」とルールを作っても,利用する国民側からしてみれば,「なんだよ,面倒くさいなぁ」とルールを守ってくれないかもしれません.

ほかには,別の法律で規定されたルールと相反するルールが対立して,「どっち守ればいいんだよ!」と苦情がくるかもしれません.

そこで,立法者は,ルールを法律という形で規定する前に,そのルールを制定する理由というものを最初の条文によって明確化することで,できるだけ国民や企業,運用する行政や裁判所等が混乱しないようにしようとしています

法律を学習する者は,その法律の第1条に規定している「目的」をまず理解することが重要となります.
法律の世界を知るためにも第1条の「目的」を知ることは,とても重要となります.

特許法も同じように第1条に,特許法を設けた理由,特許法の目的を規定しています.

特許法第1条
この法律は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発達に寄与することを目的とする.

この条文から,特許法は「産業の発達に寄与すること」が究極的な目的(最終目標)であるということになります.

では,どうすれば「産業の発達に寄与すること」ができるのか?

立法者は,発明を保護することと発明を利用することのバランスをとることで発明を奨励する,
そうすることで,産業の発達に寄与できると考えたわけです.

まずは,発明の保護
端的にいえば,発明を権利者に一定期間の独占権をあたることが,発明の保護になるでしょう.
発明を独占することで,発明が完成するまでに投資した開発費を,独占している期間内に回収して,開発費以上の利益を獲得することができます.
このような金銭的な面より,発明者の発明意欲が増し,さらなる発明が促されるでしょう.

ただし,発明を独占できるようにする一方,権利者には,他人に,発明を利用する機会を与えなければ,「発明の利用」につなげることはできません。

特許法では,権利者が一定期間の独占権を与える代わりに,独占する技術について公開することが求められます.

独占技術を公開することにより,別の人が,その独占技術の問題点に気づき,改良することで新たな技術が生まれることがあるでしょう.
また,独占技術について,ライセンスを受けて,発明を利用して製品やサービスを作り出すこともできます.
さらに,「一定期間の独占権」が与えられますので,その期間を経過した場合には,自由にその技術を利用することができます.

この「発明の保護」と「発明の利用」のバランスをとることにより,産業の発達に寄与することができると考えて,特許法という法律ができたわけです.

弁理士

特許法は,発明の保護と利用のバランスをとることで,産業の発達に寄与することができると考えてできた制度です.
発明を保護するだけではだめで、発明を積極的に利用できるようにするだけでもダメで,保護と利用の絶妙なバランスを保つことで産業の発達に持っていけるということです.

「発明」とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの

「発明」とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの
「発明」とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの

特許法の保護対象は,「発明」です.

特許法第2条第1項
この法律で「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう.

この定義を満たしさえすれば,「発明」として認められ,特許取得の第一関門をクリアすることができます.

発明の定義から,対象とする技術が,次の4つをすべて満たしているかどうかを判断し,すべて満たしていれば「発明」として認められどれか1つでも満たしていなければ「発明」として認められないということになります。
自然法則を利用していること
技術的思想であること
創作であること
高度であること

ただ,「高度」については,特許法と似た制度に「実用新案法」というものがあります.
実用新案法では「考案」が保護対象ですが,この考案との差別化を図るためにわざわざ文言上挿入したようなものです.
このため,「発明」であると認められるために必要な「高度」については,無視できる問題です.

このため,発明であるというためには,
・自然法則を利用していること
・技術的思想であること
・創作であること
の3つを備えておけば十分ということになります.

(自然法則を利用していること)
「自然法則を利用した」とありますので,自然法則そのものは,「発明」に該当しません.
例えば,万有引力の法則とか,慣性の法則といったものは「発明」には当たりません.
そもそも「利用」していないからです.

また,自然法則を利用していないものも発明には該当しません.
例えば,経済法則などを利用しているもの(例えば,FXでお金を稼ぐ方法)とか,ゲームのルール数学の公式コンピュータプログラム言語自体は,発明に該当しないということです.

(技術的思想であること)
「技術的思想」であることが求められますので,技能は発明に該当しません.例えば,フォークボールの投球方法は技能であって,技術ではありませんので,発明に該当しないということです.

技能であるか,技術であるかの判定は,文章や数式,化学式,図面などで技術情報として伝達することができ,伝達された情報に基づいて再現できるのであれば「技術」再現できないのであれば「技能」と考えてもいいのではないでしょうか.

また,情報の単なる提示も発明には該当しません.
例えば,機械の操作マニュアル等は発明に該当しないということです.

(創作であること)
「創作」であることが求められますので,単なる発見は発明には該当しません.例えば,新しい鉱石等の天然物そのものや,自然現象等の単なる発見は発明に該当しないということです.
しかし,天然物から人為的に抽出した化学物質等は,単なる発見ではなく,人的に抽出するという工程を経ていることから,創作したものにあたり,発明に該当するということです.

弁理士

発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいいます.
このため,Aさんの掃除機は発明に該当しますが,Bさんのフォークボールの投球方法は発明には該当せず,特許を取得することはできません.

ビジネスモデル特許

ビジネスモデル特許
ビジネスモデル特許

最近,また注目され始めている「ビジネスモデル特許」というものがあります.
ビジネスモデル特許は,ビジネスモデルを独占できるための特許ではなく,それを実施する際に用いる技術的工夫についてビジネスモデル特許として保護されていると考えるべきです.

ビジネスモデルそのものについては,「自然法則」ではなく,「ビジネスの方法」ですので,発明の要件の「自然法則を利用していること」を満たすことはなく,特許法上の発明に該当することはありません.

実際,ビジネスモデル特許となるケースは,インターネットやコンピューターを用いた情報技術における創意工夫があることが大半です.
この創意工夫に対して,ビジネスモデル特許という形で保護を受けることができるのです.

ビジネスモデル特許が取得できれば,他社より優位にビジネスを展開できるようになります.
ビジネスモデル自体を独占することはできないとしても,自社と同じ技術を用いてビジネスを展開することはできないため,他社がそのビジネスモデルを用いて参入することが困難となるからです.
このため,新しいビジネスモデルを思いついたときには,収益を上げるための仕組みを保護することを検討することが重要となります.

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