Aさん

先日,思いついた発明があり,学校を通じて弁理士の先生に特許調査をお願いしたところ,新規性や進歩性はありそうだと見解がでました.そのときに,早期に特許出願をすることを勧められたのですが,なぜですか?

Bさん

何度も同じ掃除機の発明について相談をして申し訳ありません.特許出願を進めるにあたり,特許請求の範囲・明細書はどのように書けばいいでしょうか?

前の記事にて,説明したように,特許法では,産業の発達の寄与を目的に,発明の保護と発明の利用のバランスをとることができるようにルール化されています.このため,産業の発達に寄与しない発明については,そもそも特許という形で保護すべきでないと考えられ,特許を受けることができません.

では,産業の発達に寄与しない発明とはどのようなものでしょうか.
産業の発達に寄与しない発明の代表例として次の5つを挙げることができます.
・産業上利用できない発明
・新規性がない発明
・進歩性がない発明
・先に出願された発明と同一発明
・明細書や特許請求の範囲の記載不備

このうち,前の記事では,産業上利用できない発明・新規性がない発明・進歩性がない発明について取り上げて解説しました.
今回は,先に出願された発明と同一発明(先願主義)と明細書や特許請求の範囲の記載不備についてお話します.

先願主義

先願主義とは,同じ発明について複数の特許出願がなされた場合には,一番早く特許出願した特許出願人に特許権を与えるという考え方です.
最初に発明をした者ではなく,最初に特許出願をした特許出願人に特許権を与えるということです.

特許法第39条第1項
同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは,最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる.

特許法第39条第2項
同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは,特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる.協議が成立せず,又は協議をすることができないときは,いずれも,その発明について特許を受けることができない.

特許法第39条第6項
特許庁長官は,第2項…の場合は,相当の期間を指定して,第2項…の協議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人に命じなければならない.

特許法第39条第7項
特許庁長官は,前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは,第2項…の協議が成立しなかつたものとみなすことができる.

(同一の発明について,異なった日に複数の特許出願がなされた場合)
この場合,特許法第39条第1項の規定により,最も先に出願をした特許出願人のみが特許を受けることができます.
その他の出願については,特許を受けることができません.

(同一の発明について,同日に複数の特許出願がなされた場合)
この場合,特許庁長官から,協議指令が発行されます.
協議の結果,一の出願人が届出されたときには,その出願人にのみ特許を受けることができますが,他の出願人は特許を受けることができなくなります.

なお,指定された期間内に届出がなかった場合,協議が成立しなかったとき,協議をすることができなかったときには,いずれの特許出願人も特許を受けることができません(特許法第39条第2項,6項,7項)

弁理士

我が国の特許法では,先願主義を採用しています.
Aさんが発明した内容について,万が一,別の方が特許出願をしてしまった場合,Aさんは特許をとることができなくなります.
このため,アドバイスを行ったその弁理士は,早期の出願を勧めているということです.

特許出願書類の記載要件

特許法第36条第3項
…明細書には,次に掲げる事項を記載しなければならない.
1 発明の名称
2 図面の簡単な説明
3 発明の詳細な説明

特許法第36条第4項
前項第3号の発明の詳細な説明の記載は,次の各号に適合するものでなければならない.
1 経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること.
2 その発明に関連する文献公知発明(第29条第1項第3号に掲げる発明をいう.以下この号において同じ.)のうち,特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは,その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること.

特許法第36条第5項
…特許請求の範囲には,請求項に区分して,各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない.この場合において,一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない.

特許法第36条第6項
…特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない.
1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること.
2 特許を受けようとする発明が明確であること.
3 請求項ごとの記載が簡潔であること.
4 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること.

新たに創作された発明について,特許を受けるためには,特許出願手続を行う必要があります.
特許出願をしなければ,権利を与える特許庁が,発明がなされたこと,そして,発明の内容を知る術がないからです.

特許出願を行うためには,願書・明細書・特許請求の範囲・必要な図面及び要約書が必要です.

図 特許出願に必要な書類

明細書
明細書は発明の内容等を記載する,技術論文のようなものです。明細書には,発明の名称図面の簡単な説明発明の詳細な説明を記載する必要があります。
また,特許法の目的は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することです。この発明の利用に供するために,発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載する必要があります.この要件を実施可能要件といいます.

特許請求の範囲
特許請求の範囲には,権利を求める発明の範囲の内容を特定して記載します。特許請求の範囲は,いわば権利書の役割を果たすものです.
特許を受けた場合には,この特許請求の範囲に記載された構成が権利範囲となります.
なお,特許請求の範囲には複数の発明を記載することができます

特許請求の範囲の記載要件について,まずは,特許請求の範囲に記載された事項は,発明の詳細な説明に記載されていることが必要です.特許制度は,新規な発明を公開するその代償として,特許権が与えられます.発明の詳細な説明に記載されていない発明は,公開されることはありません.そのような公開されない発明についてまで独占権を付与することは妥当ではありません.なお,この要件をサポート要件といっています.

また,権利書としての機能を有することから,権利の範囲が明確かつ簡潔に示されることが必要です.このため,特許請求の範囲は明確にかつ簡潔に記載することが求められます.

弁理士

明細書は,いわば技術論文のようなものです.明細書は,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載する必要があります.
特許請求の範囲は,権利の範囲を定める重要な書類です.
特許請求の範囲の記載内容が,発明の詳細な説明に記載されていなければいけません.また,特許請求の範囲は明確かつ簡潔に記載することが必要です.

特許請求の範囲の記載の留意事項

先ほど記載したとおり,特許請求の範囲に記載された事項は,発明の詳細な説明に記載されていることが必要であり,また,特許請求の範囲は明確にかつ簡潔に記載することが求められます.そのうえで,特許請求の範囲を記載する際に特に気を付けなければならないことについて説明していきます.

発明のカテゴリーを明確にすること
特許法では,発明を「物の発明」「方法の発明」とに分けられており,「方法の発明」についてはさらに「単純方法の発明」「物を生産する方法の発明」とに分けられています.

これらのカテゴリーについては,特許法において明文上判然と区別され,与えられる特許権の効力も明確に異なっています
よって,物の発明はもちろん,方法の発明と物を生産する方法の発明とについても同視することはできません.また,ある特許権に対して,カテゴリーが異なる発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできません

そして,請求項に記載の発明のカテゴリーは,特許請求の範囲の記載に基づいて判定されますので,特許請求の範囲の記載については,発明のカテゴリーを明確にすることが必要となります.請求項に係る発明のカテゴリーが不明確な場合には,権利範囲が明確ではないため,記載要件不備となります.

発明の単一性を満たすこと
特許請求の範囲には,複数の発明を記載することができると説明しましたが,無制限になんでも記載していいというわけではなく,発明の単一性を備えておかなければならないという問題があります.
発明の単一性の詳細は応用編に回しますが,例えば,請求項1に鉛筆の発明を記載し,請求項2に風邪薬の発明を記載することはできないということです.鉛筆と風邪薬はさすがに関連性が全くないということはだれでもわかりますよね。このように,関連性が全くないものを1つの出願で済ませることは許されません

知的財産管理技能検定・弁理士試験など知的財産に関する試験を受験される方
知財業務携わる方はここをクリックしてください.
試験に役立つ情報をお届けします