
特許出願を行い,出願審査請求をしたところ,特許庁から拒絶理由通知書が届きました.
私の発明は,もう特許にできないということでしょうか?

現在出願中の案件があるのですが,先日、拒絶査定が届きました.
ただ,拒絶査定の中で,請求項2に記載の発明については拒絶理由を発見できないことが記載されています.
請求項2に記載の発明について特許を受けるためにはどうしたらいいでしょうか?
新しいアイディアについて特許権を取得するためには,特許出願という手続をし,審査官が特許していいかどうかを審査してもらうことが必要となります.
ここで,審査官による審査の結果,特許することができないと一度は判断されることが一般的です.
ただ,いきなり特許しないとするのではなく,最終決定を下す前に,反論等の機会は必ず与えられます.
そこで,反論等の機会が与えられたときにどのように対応すべきかを中心に説明していきます.
Youtubeにて解説しています
余談:ゆっくり〇〇について

その前に,今,ネット界隈で盛んになっている某商標権の登録問題について,今回のテーマと関係する部分について少しふれておきましょう.
特許でも商標でも登録を受けるためには,登録要件をクリアする必要があります.
特許の場合,すでに触れたように,新規性や進歩性などを満たさないといけないということです.
商標法も同じように,登録要件が規定されており,それらの要件を満たしていれば登録,満たしていなければ拒絶をしなければいけません.
それは,特許法や商標法にきちんと規定しています.
特許法についてみていくと,特許法49条には,
「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない.」
と規定し,1号から7号まで拒絶理由が列挙されています.
新規性を満たさないといけない,進歩性を満たさないといけないのは,特許法29条の規定であり,49条2号には,
「・・・29条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき.」
と規定されているからです.
そして,特許法51条には,
「審査官は,特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない.」
と規定しています.
商標法も同じように拒絶査定の条文,登録査定の条文が設けられています.
拒絶査定を行う,特許査定を行うというのは,行政庁が法律に基づいて行う行政処分であり.法の支配のもとに行われるもので,我が国は法治国家であるが故に,法律に規定があれば対応しなければならず,法律上の根拠条文がなければ,行政処分を行うことができません.
そして,今回の記事の中盤あたりにも説明しますが,
日本国憲法下では,行政機関は,終審として裁判を行うことができないことが規定されているほか,最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であることが規定されています.
このため,審査官が行う拒絶査定について,裁判所で妥当か否かをチェックすることができるシステムが構築されているわけです.
また,特許査定や登録査定に対して,異議がある場合には,異議申立て,異議申立て期間が過ぎた場合には無効審判により,特許権や商標権を無効にしたり取消したりすることができるわけです.
ただし,きちんと法律に基づいてきちんと異議申立書や審判請求書を提出し.適切な手続を行うことが必要となります.
行政庁である特許庁が勝手に特許や商標登録を取消したり無効にしたりすることはできないということです.
SNSで,ゆっくりなんちゃらが登録されたのはおかしい,特許庁はコレコレしなければならないというファンの暴走じみた発言が見受けられますが,SNSでの意見や電話だけで,登録を取消したり無効にするのは法治国家ではあってはならないということです.
不服がある場合には,きちんと手続を踏まなければならないということです.
拒絶理由通知とは何か?
実体審査の段階で審査官が審査をした結果,拒絶理由を有するとの心証を場合,即座に拒絶の査定をするのではなく,あらかじめその旨を出願人に通知し,意見を求める機会を与えることになっています.
この出願人への通知を,「拒絶理由通知」といいます.
即座に拒絶の査定をするのではなく,拒絶理由を示して,意見を求める機会を与えるのは,
拒絶理由の有無について,審査官の判断を慎重に行わせることと,
公平妥当を担保して,恣意的判断を抑制するとともに,
出願人に対し,不服申し立てに便宜を与えるためです.
拒絶理由通知に対しては,一般的に,
1.意見書にて反論する.
2.手続補正書により明細書等を補正する.
ことがあります.
他にも,拒絶理由の内容によっては,別の対応が妥当であることがありますが、ここでは省略します.
意見書で反論するときは,審査官がどのように考えているのかを理解し,どの部分が間違っているか端的に指摘することが重要です.
野球に例えると審査官はピッチャー,出願人はバッターとなるわけですが,意見書で的外れな主張を行うことは.空振り三振と同じです.
ヒットでもいいので,しっかりと当てていくというスタンスで,意見書を作成するということがとても重要となります.
たとえば,発明を容易にすることができる,進歩性を理由とする拒絶理由の場合,意見書において,
「この引例では,コレコレが書かれていないから,審査官の判断は誤っている.」
との主張をよく見ますが,これは,空振り三振と一緒です.
新規性を理由とする拒絶理由の場合は,この主張はとても重要ですが,
進歩性を理由とする拒絶理由については,
「発明を容易にすることができたか」
これが争点ですので,容易にすることができないことについて理由をつけて主張することが有効です.
たとえば,
単なる寄せ集めに該当しないこととか,
複数の引用文献を組み合わせることの動機づけが存在しないとか,
組み合わせた場合,出願した発明と真逆の効果が創出される
などの主張は,進歩性の拒絶理由通知に対する強力な反論として有効となります.
手続補正書による補正も同様です.
審査官がこの部分について問題があると指摘しているにもかかわらず,その指摘とは全く関係のないところについて補正を行うのは,空振り三振と一緒です.
審査官の指摘している内容を理解した上で,適切な対応を行うことがとても重要です.

拒絶理由通知は実体審査の段階で,審査官が審査をした結果,拒絶理由を有するとの心証を得ている場合に,あらかじめその旨を出願人に通知し,意見を求める機会を与えるものです.
このため,この段階で特許を取得することができないわけではなく,適切な対応ができれば,特許を取得することができる可能性が高まります.
そのためにも,審査官の指摘している内容を理解した上で,適切な対応を行うことがとても重要です.
拒絶理由通知が届いたときの対応手順
拒絶理由通知が届いたときの対応手順
では,拒絶理由通知が届いた場合には,どのように対応をしたらいいのでしょうか.
拒絶理由通知が届いたら,まず冷静になり,内容を正しく理解することを第一に行います.
通常,発明をした方が満を持して特許出願しますので,
発明者ではない審査官から,特許しないとする拒絶理由通知が届いた場合、感情面で荒れることは理解できます.
しかし,感情に任せて対応しても,いいことは全くありません.
ひとまず,冷静になり,
とにかく,冷静に拒絶理由通知を読み,内容を正しく理解するようにしてください.
そして,内容を正しく理解した上で,反論できる要素があるかどうかを,冷静になって考えることがとても重要です.
ここで,審査官の考えは100%正しい,絶対だとは思わないことです.
意見書で反論できるにも関わらず,反論せずに,手続補正書により補正をすることにより,
本来,広い範囲での権利取得が可能であったのに,狭い範囲での権利となってしまったというケースもよくあります.
このため,補正を第一に考えるのではなく,
反論できるところがあるかどうかを第一に考えるようにしてください.
もし,拒絶理由通知の内容に誤りがあり,承服できない場合には,意見書を提出して反論することが有効です.
場合によっては,審査官に面接審査を要請し,
今では,オンラインで審査官とやりとりを容易に行うこともできますので,面接審査を積極的に活用することをおすすめします.

拒絶理由通知が届いたら,冷静に内容を正しく理解することを第一に行います.
そして,内容を正しく理解したうえで,反論できる要素があるかどうかを冷静になって考えることがとても重要です.
拒絶理由通知の内容に誤りがあり,承服できない場合には,意見書を提出して反論するようにしましょう.
場合によっては面接審査を活用することをお勧めします.
反論で拒絶を回避できないとき
冷静になって,拒絶理由通知の内容を読んだところ,確かに,審査官の指摘事項はもっともだと考えたとき,すぐに権利化をあきらめるのもよくありません.
意見書で反論して,拒絶を回避することができないと判断しても,
明細書等の内容,特に特許請求の範囲の内容を修正することにより,拒絶を回避できるのではないかということを考えていきます.
明細書・特許請求の範囲・図面は,出願当初の範囲内で補正をすることが可能ですので,補正できるところを検討します.
そして,補正の適法性を含めて,補正により拒絶を回避することができるかを検討します.
例えば,新しいこと,新規性の要件を満たしていないのであれば,
発明の構成要件を付加することによって,引用された技術と異ならせることによって拒絶を回避することができますので,そのようなことを考えていきます.
そして,明細書中に記載があり,補正により拒絶を回避できると考えるならば,手続補正書による補正を行います.
なお,この場合でも,審査官との面接により,補正の是非を含めてアドバイスを受けることも可能かと思いますので,積極的に活用することをおすすめします.
その一方,補正しても拒絶を回避することができないと考えるならば,権利化を断念することも必要です.
損切りも大事です.
損切りとは,損失を最小限にとどめるために,損失額の少ない段階で処分することですが,
特許権を取得することに固執して,費用をかけて,最終的に権利化できなかった場合には,それまでにかけた費用はすべて損失となります.
拒絶理由通知の内容の結果,権利化が難しいと判断されるならば,これ以上,費用をかけて手続を行うのではなく,権利化を断念し,別の事業等に資金を回すこともとても重要です.
権利化のための手続を行うためには,費用と時間がかかるものです.
資金も時間も有限ですので,権利化により得られるメリットを含めて,対応を行うか否かを検討することをおすすめします.

意見書で反論しても拒絶を回避することができないと考えたならば,次に補正により拒絶理由を解消することができるかを検討します.
補正により拒絶理由を解消することができるのであれば,手続補正書による補正を行うことを検討します.
補正によって拒絶を回避できない場合には,権利化を断念することも重要です.
権利化により得られるメリットを含めて,対応を行うか否かを検討することをおすすめします.
明細書等の補正の留意点
明細書・特許請求の範囲・図面を補正するときに気をつけないといけないことがあります.
それは,補正の要件を満たしていることが必要であるということです.
補正の要件は,いくつかあるのですが,初学者の方にまず押さえてほしい要件として,
補正のできる範囲は,出願当初の明細書等に記載した事項が基準であり,出願当初の明細書等に記載の事項を超えて新たな事項を追加することはできないということです.
例えば,明細書・特許請求の範囲・図面に,発明イ・発明ロ・発明ハを記載して特許出願をしたとします。
その後,拒絶理由通知が届いたとします.
拒絶理由を解消するために,発明イについての権利化は断念し,発明ロ,発明ハに限定する補正を行うことは,もちろんOKです.
問題なのは,拒絶理由を解消するために,明細書・特許請求の範囲・図面に記載のない発明ニを追加して,発明ニについて権利取得できるように書き換えることです.
このような場合,発明ニを追加することは,出願当初の明細書には記載されていない事項を追加する行為であり,新規事項の追加に当たり,補正の要件を満たさず,新たな拒絶理由が生じることになります.
補正という行為をすることで,補正した内容により特許出願がされたものとして扱われることになります.
実際の出願のときに発明ニは記載されていないのに,補正により発明ニを追加することで,出願の時に発明ニが記載されているものとして扱われるのは,おかしな話だと思いませんか.
このため,補正できる範囲は出願当初の明細書等が基準となります.
また,新規事項の追加を認めると,審査官はイチから調査・審査をし直さなければなりませんので,迅速な権利付与ができなくなります.
また,第三者にとって,我が国のすべての出願の動向を常に監視しなければならないことになり,極端に大きな負担となってしまいます.
このように新規事項の追加を認めると弊害しかありませんので,新規事項の追加は認められていません.
手続補正書による補正ができる時期ですが,
基本的には,特許査定がなされるまでは,いつでも補正することができます.
ただし,拒絶理由通知書が届いたときには,明細書・特許請求の範囲・図面の補正に関しては,
拒絶理由通知書において指定された期間内,
または,拒絶査定不服審判の請求と同時に,
手続補正書による補正をすることができます.
それ以外に手続補正書を提出した場合には,補正が却下されますので注意が必要です.

手続補正書による明細書等の補正は,新規事項の追加に当たらないようにすることに注意します.
また、手続補正書による明細書等の補正は原則特許査定がなされるまではいつでも可能ですが,拒絶理由通知が届いた後は,時期的に制限が加わります.
このため,適切な時期に手続補正書を提出するようにしましょう.
拒絶査定不服審判・審決取消訴訟
実体審査において審査官が最終的に特許できないと認めれば,拒絶査定が発送されます.
拒絶査定は,特許庁審査官が行います.
拒絶査定を受けた出願人が,その拒絶査定に不服があるときには,拒絶査定の謄本の送達があった日から3月以内に拒絶査定不服審判を請求することができます.
発明は抽象的な技術的思想であり,拒絶理由の有無の判断は困難です.
このため,審査官の査定処分に誤りがないことを保証することはできません.
また,出願人の不適切な対応により拒絶査定がなされる場合もあります.
さらに,特許庁審査官は,一人の人間ではありますが,法律上は,行政機関です.
日本国憲法下では,行政機関は,終審として裁判を行うことができないことが規定されているほか,
最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であることが規定されています.
このため,審査官が行う拒絶査定について,裁判所で妥当か否かをチェックすることができるシステムとなっています.
ところが,裁判所は技術的事項について長けているわけではありませんので,
技術的事項について専門的知見を持っている特許庁審判官にひとまず審理をゆだね,審判官の審理を経てもなお異議がある場合に初めて裁判所に出訴できるというシステムを構築しています.
なお,さきほど触れたとおり,拒絶査定不服審判の請求と同時であれば,明細書等を補正することは可能ですし,
審判の審理の途中で拒絶理由通知が発送されることもありますので,そのときに補正をすることも可能です.
拒絶査定不服審判は3人または5人の特許庁審判官の合議により,特許できるか審理を行うことになっています.
合議の結果,特許できるとした場合には,特許審決がなされ,30日以内に1~3年分の特許料を納付することで特許権を得ることができます.
合議の結果,特許できないとなったときには,拒絶審決となります.
拒絶審決に対して不服がある場合には,拒絶審決の謄本が送達されてから30日以内に東京高等裁判所,実際には知的財産高等裁判所(略して知財高裁と言ったりします.)に出訴することができます.
知財高裁では3人または5人の裁判官により,審決が妥当か否かを審理することになります.
審決が妥当,つまり,審決に記載された理由によって特許できないと裁判官が判断するのであれば,請求棄却判決となります.
その一方,審決の内容に誤りがあり,審決に記載された理由によって特許できないとするのはおかしいと,裁判官が判断した場合には,審決を取り消す判決がなされます.
審決が取り消された場合には,特許庁審判官による合議が再度なされ,2回目の審決がなされます.
この審決についても不服があるときは知財高裁に出訴することができるようになっています.
ところで,知財高裁では,なぜ特許する旨の判決をしないのかといいますと,
特許をする,しないの決定は行政処分であり,行政庁の権限により行われるものです.
知財高裁は司法庁であるため,三権分立の原則から,裁判所は特許するという判決をすることができないのです.
裁判所ができるのは,審決を取り消すことができるかできないかというところだけです.
知財高裁において,審決に記載された理由によって特許できないと裁判官が判断するのであれば,請求棄却判決となりますが,
この判決に対して不服があるときは,最高裁判所に上告することができるようになっています.

拒絶査定に不服がある場合には,拒絶査定の謄本の送達の日から3月以内に拒絶査定不服審判を請求することができます.
審判の審理において審判官合議体が特許できると判断された場合には特許審決,特許できないと判断した場合には,拒絶審決となります.
拒絶審決に対し不服がある場合には,拒絶審決の送達日から30日以内に審決取り消し訴訟を東京高裁(知財高裁)に出訴できます.
なお,審決取消訴訟では,審決を取消すか否かのみの判断し,特許付与の判決は出すことができません.
なお,拒絶査定不服審判の請求と同時に明細書等の補正が可能です.