新たな技術を開発した時、開発の成果について、特許権を取得したいと考えるのは当然のことです。

特許権を取得する場合には、特許の申請(特許出願)を行う必要がありますが、直ちに特許出願の準備に取り掛かるのではなく、本当に特許出願をすべきか否かを、事業性、特許取得可能性、財務面での観点から判断すべきです。この点について、次のページで解説していますので参考にしてください。
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【特許出願前に確認すべき3つのチェックリスト】失敗しないための準備とは?
2025/5/12
新たな技術を開発したとき、開発の成果について、特許権を取得したいと考えるのは当然のことだと思います。 しかし、直ちに出願準備に取り掛かるのではなく、本当に特許出願をすべきか否かを、冷静になって考えるこ ...
ここでは、事前準備を終え、特許出願に取り掛かり、特許権取得までの手続の流れについて、ポイントを解説していきます。
特許出願から特許権の取得までの流れをわかりやすく解説
特許出願から特許権の発生までの流れを説明する前に、大学などに入学するときの流れをイメージしてください。

大学入学を希望してから大学に入学するまでの流れ
- 入学したい学校を選択し、その学校に「入学願書」を提出します。
- 願書の提出と同時にまたは指定された期日までに「受験料」を納付します。
- 試験会場にて「入学試験」を受けます。
- 試験に「合格」します。
- 所定期日までに「入学金」を納めます。
- 「大学に入学」し、「大学生の地位」を得ることができます。
特許出願から特許権の発生までの流れも同じです。

特許出願から特許権取得までの流れ
- 発明が完成し、特許を取得するという選択を行ったら、特許庁に「特許出願」を行います。
- 特許出願と同時にまたは所定期日までに「出願審査請求」を行います。
出願審査請求は、審査に必要な実費分を特許庁に納付するものです。 - 審査官による「審査」を受けます。
- 審査の結果、特許してもいいと判断されれば「特許査定」が送付されます。
- 所定期日までに「特許料」を納付します。
- 特許権の設定登録がなされ、「特許権が発生」し、「特許権者の地位」を得ることができます。
もう少し詳しく記載したフローを下に提示します。
青の部分は特許出願人の手続、オレンジの部分は特許庁が行う手続となります。

特許出願とは?完成した発明を権利化するための第一歩

発明が完成し、その発明について「特許権が欲しい」という意思表示をするために、特許出願を行います。
特許制度は、発明の保護と利用のバランスをとることにより、産業の発達に寄与する制度です。
特許出願を行う場合には、この両者のバランスがとれていることを特に意識する必要があります。
権利を取得しようとする発明について、発明の保護を求めるならば、その発明は、新規な発明であることが求められること、
そして、発明の公開の代償として、特許権が付与される点は特に意識すべきです。
また、発明の利用に供するためには、技術文献的な利用、ライセンスの対象、そして、独占期間終了後は自由技術となることから、公開される技術内容については、エンジニアにとって実施可能なレベルまで明らかにしなければならないことにも意識を向けるべきです。
特許出願に必要な書類と出願手数料
特許出願に必要な書類として、以下のものがあります。

特許出願に必要な書類
- 特許願(願書)
発明者・特許出願人の情報が記載された書類です。
発明者・特許出願人の氏名(名称)だけでなく、住所(居所)も公開の対象となります。 - 明細書
技術論文のようなもので、発明の利用に供されるものです。
発明を実施できる程度に必要かつ十分に記載する必要があります。 - 特許請求の範囲
権利の範囲を記載した権利書のような書面です。
権利範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められます。 - 要約書
発明の内容を要約した書面で、データベース検索に便宜上利用されるものです。
権利範囲に影響されるものではありません。 - 図面(必須ではない)
発明の理解に供されるものです。
これらの書類を作成したら、特許庁に送付します。また、出願手数料15,000円を納付する必要があります。
この出願手数料は減免の対象ではなく、特許出願を行うときは、必ず納めなければならないものとなります。
明細書の記載の留意点
明細書の記載については、特許法第36条第4項第1号に規定がありますので、見ていきましょう。
前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること(特許法第36条第4項第1号)。

発明な詳細な説明は、明細書と読み替えて構いません。明細書は、明確かつ十分に記載することが求められています。
どのような技術レベルの人を基準に明確かつ十分というのかといいますと、
法律上は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者、これを業界用語で「当業者」といっていますが、
その当業者が基準となります。
全くイコールではないのですが、その技術の分野に属するエンジニア・技術者をベースに考えるとよいでしょう。
そのエンジニア・技術者が、明細書を読んで、権利を取得しようとする技術を理解することができ、
しかも、ある程度再現できるように示すことが求められているということです。
明細書は、発明の利用に供されるものです。
発明の利用に供することができないものについては、明細書の役割を果たせないので不適切となります。
問題解決手法の考え方は発明を明確かつ十分に表現するのに役に立つ
発明を十分にかつ明確にとは、具体的に何を書かないといけないのでしょうか。
その参考となるのが、問題解決手法です。

問題解決手法の考え方(フロー)
- 問題の所在の把握:「現状」と「あるべき姿」を明確にし、そのギャップを「問題」として把握します。
- 問題発生原因の分析:そのギャップ(問題)がどのような原因で生じているのかを分析します。
- 課題の抽出:問題解決の方向性(課題)を決定します。
問題発生原因を解消することで問題解決に至るのですが、すべてを解消させることは現実的ではありません。
そこで、費用対効果の観点から、課題を絞り込み、少しでも「あるべき姿」に近づけるようにします。 - 解決策の提案・実行:課題にあった解決策を提案し、実行します。
発明に該当する部分が「解決策」ということになり、技術論文を書くときも、基本的にこの流れで説明することになります。
明細書の様式は、この問題解決手法にそって構成されています。
明細書の構成
- 発明の名称
- 技術分野
- 背景技術
- 先行技術文献
- 発明が解決しようとする課題
- 課題を解決するための手段
- 発明の効果
- (図面の簡単な説明)
- 発明を実施するための形態
- (産業上の利用可能性)
- (符号の説明)

「発明の名称」は発明のタイトルです。「技術分野」は、発明の属する技術分野を特定する箇所です。
「背景技術」・「先行技術文献」・「発明が解決しようとする課題」は、現状(従来技術)を特定したうえで、何が問題なのか、どこに問題発生原因があるのか、課題は何なのかを書いていきます。
次に「課題を解決するための手段」、「発明の効果」と続いていきます。
ここでは、問題解決策とその解決策によって得られる技術的効果を記載します。
どのような理由で効果が得られるのか、解決策の技術的作用についてもここに記載していきます。
最後の「発明を実施するための形態」の欄で締めます。
ここでは、効果が得られるための具体的構成、方法を明記するとともに、
必要に応じて、効果が得られたことを示す分析データ、表などをつけていきます。
実験レポートや研究論文でいうところの、実証実験の条件や実験方法なども、この「発明を実施するための形態」の欄に記載します。
特許請求の範囲の記載の留意点
特許請求の範囲の記載については、特許法第36条第6項に規定がありますので、見ていきましょう。
第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない(特許法第36条第6項)。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二 特許を受けようとする発明が明確であること。

他にもいろいろ記載についての規定があるのですが、
まずは、特許請求の範囲の記載については明確性が求められます(特許法第36条第6項第2号)。
第三者に対して、特許を受けようとする発明の範囲を明確にすることが求められます。
特許請求の範囲は権利書ですので、特に、発明の境界がきちんとわかるように記載しなければなりません。
例えば、「約70%」と記載した場合、71%は権利範囲内なのか、69%は権利範囲外なのかは明らかではありませんし、
そもそも「%」は重量%なのか、体積%なのか、モル%なのかもわかりません。
そのような不明確な記載は許されません。
権利範囲が不明確であれば、第三者からすれば、どこまでであれば権利侵害に当たるのかが、わからなくなります。
それでは困りますので、特許請求の範囲は明確に記載する必要があります。
次に、発明の詳細な説明(明細書)に記載された発明の範囲内であることが求められます(特許法第36条第6項第1号)。
明細書に書かれていない発明については、特許権は与えられないということです。
明細書は、発明の利用に供するものですが、
そこに書かれていないということは、発明の利用に供さないので、権利を与えるべきではありません。
出願公開とは?発明の内容が公開されるタイミングと影響

出願公開は、特許出願の日から1年6月後に、原則、出願されたものすべてを公開するものです。
特許法の目的が、「発明の保護」と「発明の利用」のバランスをとることによって、「産業の発達」という目標を達成することにあります。
この「発明の利用」の機会を与えるために必要な制度として、出願公開制度が設けられています。
つまり、特許制度は、新しい技術を公開した者に対し、その代償として、一定の期間、一定の条件のもとに特許権という独占的な権利を付与し、
他方、第三者に対しては、公開された発明を利用する機会を与えるものです。
この新しい技術を「公開」する制度が出願公開ということになります。

ただし、この出願公開により、技術情報が全世界にオープンになります。
このため、本来秘匿すべき情報、ノウハウに近いような情報は、明細書に記載しないか、
仮に記載するにしても、抽象的に記載したほうがよく、
明細書に記載要件とのバランス、匙加減は難しいです。
そこで、代理人の力を借りるのがいいのですが、代理人に丸投げせず、
代理人としっかりとコミュニケーションをとって、特許出願等を進めていくことをお勧めします。
出願審査請求とは?特許審査を受けるための費用と手続

特許出願を行った後、特許出願人が行う手続に「出願審査請求」があります。
特許を取得するためには、特許庁審査官による審査を受ける必要があります。
その審査を受けるために行う手続が出願審査請求です。

わが国では、特許出願件数が年々右肩下がりの状態ではあるものの、2022年の段階で約29万件の特許出願が行われています。
今、特許庁審査官が約2,000名ほどであり、そのうちざっくりと1,600名ほどが特許の審査を行っているようです。
仮にすべての特許出願について審査を行うとなった場合には、ざっくり1人あたり180件、
単純計算して1人あたり2日に1件のペースで審査をしないと終わりませんので、現実的ではありません。
そこで、1人あたりの審査件数を減らす必要があり、「出願審査請求」制度が導入されました。
特許法48条の3第1項では、何人も、特許出願の日から3年以内に、出願審査請求ができることが規定されています。
そして、特許出願の日から3年以内に出願審査請求がなかったときは、特許出願が取り下げられたものとみなされ、
その後、特許を取得することができなくなります。

特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる(特許法第48条の3第1項)。
第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす(特許法第48条の3第4項)。
導入経緯は、審査官による審査件数を減らすことを目的としていますが、実際のところは、審査にかかる実費相当分を負担してもらう(受益者負担)ものです。
出願審査請求料は、請求項の数、つまり、特許請求の範囲に記載した発明の数によって変わり、
現在(2025年(令和7年))のところ、基本料金138,000円に、請求項の数×4,000円を加えた額となります。
請求項の数が1項でも、出願審査請求料は142,000円となります。
このため、中小企業であるなどの減免の対象であれば、減免することができますので、積極的に活用するようにしましょう。
実体審査と拒絶理由通知の流れ【特許事務所が教える対応ポイント】

ここでは、色の付いた部分、実体審査、拒絶理由の通知、意見書の提出、特許査定と拒絶査定について説明していきます。
実体審査では、審査官により、新規性や進歩性の有無、記載要件等の特許要件を満たしているか否かをチェック(審査)していきます。
審査の結果、特許要件を満たしている、つまり、拒絶理由がない場合は、特許査定が発行されます。
審査の結果、特許要件を満たしていない、つまり、拒絶理由がある場合には、拒絶理由が通知(拒絶理由通知が発行)されます。
拒絶理由通知が発行されたとき、特許出願人は、意見書を提出して反論したり、
手続き補正書により明細書等を修正(補正)したりできます。
これらの対応の結果、拒絶理由が解消し、他に拒絶理由がないときも特許査定が発行されます。
拒絶理由通知に対し、放置したり、意見書等を提出したが、それでも拒絶理由を解消していないときには、拒絶査定となり、
審査のフェーズはこれで終了となります。
拒絶理由通知の本質は特許付与に前向きであること
特許法第49条では、審査官は、特許出願が拒絶理由に該当する事由に該当するときは、拒絶査定をしなければならないことが定められています。
このため、審査官が拒絶をすべき旨の査定を裁量で出すことはできません。
もっとも、特許法第51条では、審査官が拒絶の理由を発見しないときは、特許査定をしなければならないことも定められており、
特許査定を審査官の裁量で出すこともできません。
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない(特許法第49条)。
審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、特許をすべき旨の査定をしなければならない(特許法第51条)。
そのうえで、特許法50条では、審査官は、拒絶査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶理由を通知し、相当の期間指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないことが定められています。
審査官による審査により、拒絶理由があるとの心証を得たときは、いきなり拒絶査定をするのではなく、あらかじめ、出願人に通知して意見を求める機会を与えています。
この審査官からの通知を「拒絶理由通知」といいます。
これは、行政手続の原則のひとつに、
行政庁が不利益処分を行おうとする場合、その不利益処分のあて人となる者について、意見陳述のための手続をとらなければならない
というものがあります。
拒絶理由通知も同様で、拒絶査定という不利益処分を行う前に、意見を求める機会を与える、そのための通知ということになります。
ところで、拒絶理由を有するか否かについては、技術的にも法律的に高度な判断が求められることから、
拒絶理由通知は、審査官が発見した拒絶理由が本当に妥当であるのかを、審査官と特許出願人とが協力して考える機会でもあり、
また、仮に出願書類の記載に不備等の問題があったときに、その問題を特許出願人が把握し、是正するきっかけにもつながります。

明細書の構成
- 特許取得に向けて、発見した拒絶理由が妥当であるかを出願人と協力して考える機会
- 問題点を是正するきっかけ
このため、拒絶理由通知という、名前こそ心理的威圧感を与えるものではありますが、
本質を見誤らず、審査官の指摘している内容を理解し、適切な対応を行うことがとても重要です。
拒絶理由通知が届いたときの事前検討
拒絶理由通知が届いたら、まず、具体的な対応をとる前に事前検討に入ります。

拒絶理由通知が届いた時の事前検討
- 拒絶理由通知の内容を正しく理解する
- 拒絶理由通知に示された内容に対して、妥当性を判断する
拒絶理由通知の内容を正しく理解する

まず、適切な対応をとるためには、拒絶理由通知の内容を正しく理解することがとても重要です。
そのためにも、ひとまず冷静になるべきです。
自身が発明した内容について、審査官から、創作容易だなんて言われて、頭にくることは理解できますが、
有利な対応をとることができるように、まずは冷静になることです。
そのうえで、落ち着いて拒絶理由を読み、内容を正しく理解するように努めます。
とくに、難しい専門用語や法律用語が出てくるかもしれません。
そのときは、弁理士の力を借りたり、審査官とコミュニケーションを図ることは、とても有効です。
拒絶理由通知に示された内容に対して、妥当性を判断する
拒絶理由通知の内容を正しく理解できたら、次に、その内容について妥当性を判断します。

このときに、注意すべき点として、「審査官の判断は、100%正しいと思い込まない」ことです。
出願書類、特に明細書や特許請求の範囲は、文章だけで表現されていますので、正しく伝わっていない可能性があります。
そのときは、きちんと指摘すれば拒絶を解消することができるのですから、極端に権利範囲を狭める必要もなくなります。
拒絶理由への反論のコツ【間違いの指摘は端的に】
拒絶理由通知の内容に誤りがあり、承服できない場合は、意見書を提出して反論することになります。
必要に応じて、審査官に面接審査を要請し、審査官と直接コミュニケーションを図るのもよいでしょう。

意見書による反論の主な留意点
- 審査官が指定した応答期限日に遅れない
- 応答期限日までに意見書を提出できないときは、「事前に」応答期限日の延長申請をする
- 反論すべきところを的確に指摘する
まず、審査官が指定した応答期限日に遅れてはいけません。
とはいっても、何らかの事情で遅れてしまうことも、やむを得ないところもあります。
もし遅れそうになったときは、事前に応答期限日の延長申請を提出したほうがよいでしょう。
事前の延長申請は、2,100円支払えば延長できますが、応答期限日後の延長申請は51,000円と高額になるからです。
そして、反論すべきところを的確に指摘することもとても重要です。
意見書を提出するとなったときに、10ページや20ページも書いてくる方がいますが、ナンセンスです。
長々と書くと、いいたいところがぼやけてきます。
この記事の筆者が意見書を提出するとなったときは、大体2~3ページで収まるようにしています。
試験の答案と一緒で、読み手のことを考えて、的確に指摘することがとても重要です。
手続補正のルール【新規事項追加の禁止に注意】
事前検討の結果、拒絶理由通知の内容は妥当ではあるものの、明細書等の記載を修正すれば拒絶を解消できそうなときは、
手続補正書にて明細書等を修正(これを補正といいます。)することも可能です。
また、明細書等を補正する場合も、審査官と直接コミュニケーションを図っておくほうがよいでしょう。

明細書等を修正(補正)するときの主な留意点
- 審査官が指定した応答期限日に遅れない
- 新規事項の追加に該当しないようにする
- 補正の内容如何によっては権利範囲が狭くなる
まず、意見書による反論と同様に、審査官が指定した応答期限日に遅れてはいけません。
補正ができる時期が決まっており、拒絶理由通知に対する応答期限日の延長申請ができなかったときは、拒絶査定が発行されるまで補正はできません。
手続補正書の提出に関しては、なお一層、応答期限日に敏感になるべきです。
また、明細書等の補正の要件はいろいろありますが、新規事項の追加に該当しないように気を付けなければいけません。
また、補正の内容によって、特に、特許請求の範囲を補正することで、権利範囲が狭くなることもある点にも注意が必要です。
気を付けよう!新規事項の追加の禁止
新規事項の追加の禁止とは、手続補正書による明細書等の補正は、出願当初の明細書等の記載の範囲内であれば許容されるが、出願当初の明細書等に記載されていない新たな事項を追加することは許容されないことをいいます。

第1項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない(特許法第17条の2第3項、かっこ書き省略)。

例えば、上のように出願当初の特許請求の範囲に発明イ、明細書に発明イ、発明ロ、発明ハが記載されており、
補正Aでは、特許請求の範囲をイから発明ロに変更し、明細書から発明イを削除しています。
この場合、出願当初の明細書に発明ロが記載されていることから、新規事項の追加に該当しません。
しかし、補正Bでは、特許請求の範囲の発明ロから発明ニに変更し、明細書に発明イを復活させ、さらに発明ニを追加しています。
この場合、出願当初の明細書に発明イが記載されていることから、明細書に発明イを復活させている点については、新規事項の追加に該当しませんが、
出願当初の明細書等には発明ニが記載されていないことから、特許請求の範囲の発明ニへの変更、明細書に発明ニを追加することは、新規事項の追加に該当しますので、補正Bは不適法となります。
新規事項の追加を行った場合、拒絶理由に該当するだけでなく、場合によっては補正が却下されますので、特に注意が必要です。
ときには損切も必要!撤退判断の基準

事前検討の結果、拒絶理由通知の内容は妥当ではあるものの、明細書等の記載を修正すれば拒絶を解消できそうでないときは、権利化を断念すべきです。
また、仮に権利化できるとしても、自己実施やライセンス事業を進めるなどの予定がないときも、同様に、権利化の断念を検討すべきです。
ときには、損切も大事です。何のために特許を取得したいのか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。
とくに、多額の資金を投入して特許権を取得しても、十分に特許権を活用しきれず、権利維持しないというケースを多く見ます。
出願前の事前検討において、事業性の検討を行っていないために起こり得ることですが、拒絶理由通知が届いたときも、今一度立ち止まって、考えてみるのも有効かもしれません。
また、特許取得にどこまで金銭や労力を費やすのか、その上限を決めておくことも、とても重要です。
特許査定後の手続と特許権発生の流れ

審査官による審査の結果、拒絶理由がないとの心証を審査官が得たときは、特許査定が発行されます。
特許査定が届きましたら、届いた日(送達日)から30日以内に第1年から第3年までの各年分の特許料を一括納付します。
第1年から第3年までの特許料は、毎年基本料金4,300円に請求項の数×300円を加えた額となります。毎年の特許料を3年分つまり、3倍の額を特許庁に納めます。
例えば、請求項が一つの時は4,600円×3年=13,800円を特許庁に納めることになります。
なお、中小企業である等、減免の対象であれば、特許料も減免されますので、活用するようにしましょう。
特許権の設定登録により特許権が発生する
第1年から第3年までの各年分の特許料を納付した後に、特許権の設定の登録がなされます。
この特許権の設定の登録は、特許庁にて「特許原簿」というものを作成し、権利者情報などが記録されます。
この特許原簿に、権利者情報が書き込まれたときに登録完了となるのですが、登録完了の時点で特許権が発生します。
それまでは、特許権は発生していませんので、注意が必要です。
特許証は権利の有無を証明するものではない名誉的なものです
特許権の設定登録があったときは、特許証と特許公報が発行されます。
特許公報は、特許権が設定されたことを公示するもので、権利範囲等が示されたものです。
特許権侵害に該当するか否かの判断をする公報は、この「特許公報」です。「出願公開公報」ではない点に注意が必要です。
特許証は、特許番号、発明の名称、特許権者、発明者が記載された賞状のようなものです。
特許証は現在は電子媒体での提供となっておりますが、有償で紙での提供もできるようです。
特許証は、発明者の名誉をたたえるためのもので、我が国が加盟しているパリ条約に規定の発明者掲載権を担保するものとなります。
権利の有無を証明する書面ではない点に注意してください。
【まとめ】特許出願から特許権取得までの流れと成功のコツ
ここでは、事前準備を終え、特許出願に取り掛かり、特許権取得までの手続の流れについて、ポイントを解説しました。
それぞれの手続のポイントを簡単にまとめます。
特許出願のポイント
- 発明の権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づく
- 明細書は技術論文的な位置づけ。ある程度の再現性・データは必要
- 出願した技術情報は公開される
拒絶理由通知が届いたときの対応のポイント
- まずは冷静になり、拒絶理由通知の内容を理解する
- 内容の妥当性について冷静に分析・判断する
- 明細書・特許請求の範囲の補正は、新規事項の追加不可
- 審査官とのコミュニケーションをはかること
その他のポイント
- 出願審査請求は、特許出願の日から3年以内
- 特許査定が届いたのち、原則30日以内に特許料を納付
- 特許権の設定登録によって特許権が発生
- 特許証は権利の有無を証明する書面ではない。権利の有無は特許原簿で証明